仕事によるうつ病とその背景にあるデータ
2014/10/27更新
仕事における強い不安や悩み、ストレスを抱える人はとても多く、それがうつ病につながることもあります。そのデータを紹介します。
仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがある
2007年データ
厚生労働省の労働者健康状況調査(2007年)によると、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがある」と答えた労働者は58.0%(男性59.2%、女性56.3%)となっています。
就業形態別では次のようになっています。
- 一般社員:61.8%
- 契約社員:56.2%
- パートタイム:40.3%
2012年データ
2012年の同調査では次のようになりました。
「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがある」
- 全体:60.9%
- 男性:60.1%
- 女性:61.9%
就業形態別
- 正社員:64.1%
- 契約社員:62.7%
- パートタイム:45.3%
- 派遣労働者:68.1%
2017年よりも増えていることがわかります。派遣労働者が高い割合を示していることが特徴的です。
全調査年データ
調査年ごとの割合を表にまとめました。
調査年 | 全体(%) | 男性(%) | 女性(%) |
---|---|---|---|
1982 | 50.6 | 52.2 | 46.8 |
1987 | 55.0 | 56.2 | 52.4 |
1992 | 57.3 | 58.8 | 54.2 |
1997 | 62.8 | 64.6 | 59.9 |
2002 | 61.5 | 63.8 | 57.7 |
2007 | 58.0 | 59.2 | 56.3 |
2012 | 60.9 | 60.1 | 61.9 |
「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがある」労働者の割合
労働者健康状況調査より
近年、横ばい傾向にありますが、全体としては緩やかに増加しています。
2012年では、女性が男性を上回りました。
別調査のデータ
以上は労働者健康状況調査の結果ですが、「労働安全衛生調査」でも同様の調査項目があります。その結果は次のとおりです。
調査年 | 全体(%) | 男性(%) | 女性(%) |
---|---|---|---|
2013 | 52.3 | 52.8 | 51.5 |
2015 | 55.7 | 53.7 | 58.5 |
「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある」労働者の割合
労働安全衛生調査より
2013年、2015年の労働安全衛生調査では、2012年の労働者健康状況調査の結果(60.9%)よりも低い値となっています。
仕事のどのようところにストレスを感じるか
仕事のどのようなところに強い不安や悩み、ストレスを感じるか、その原因を調査した結果は次のようになりました。
2007年のデータ
【合計】
- 職場の人間関係の問題:38.4%
- 仕事の質の問題:34.8%
- 仕事の量の問題:30.6%
- 会社の将来性の問題:22.7%
- 仕事への適性の問題22.5%
- 昇進、昇給の問題:21.2%
- 定年後の仕事、老後の問題:21.2%
- 雇用の安定性の問題:12.8%
- 配置転換の問題:8.1%
- 事故や災害の経験:2.3%
【男性】
- 仕事の質の問題:36.3%
- 職場の人間関係の問題:30.4%
- 仕事の量の問題:30.3%
- 会社の将来性の問題:29.1%
- 昇進、昇給の問題:24.9%
- 定年後の仕事、老後の問題:24.1%
- 仕事への適性の問題21.2%
- 雇用の安定性の問題:12.2%
- 配置転換の問題:8.7%
- 事故や災害の経験:3.0%
【女性】
- 職場の人間関係の問題:50.5%
- 仕事の質の問題:32.5%
- 仕事の量の問題:31.1%
- 仕事への適性の問題24.5%
- 定年後の仕事、老後の問題:16.7%
- 昇進、昇給の問題:15.6%
- 雇用の安定性の問題:13.7%
- 会社の将来性の問題:12.9%
- 配置転換の問題:7.1%
- 事故や災害の経験:1.1%
女性では人間関係の問題が際立って高いことと、将来性の問題が男性に比べてかなり低いことが特徴的です。
2012年のデータ
原因 | 全体(%) | 男性(%) | 女性(%) |
---|---|---|---|
職場の人間関係の問題 | 41.3 | 35.2 | 48.6 |
仕事の質の問題 | 33.1 | 34.9 | 30.9 |
仕事の量の問題 | 30.3 | 33.0 | 27.0 |
会社の将来性の問題 | 22.8 | 29.1 | 15.0 |
仕事への適正の問題 | 20.3 | 19.6 | 21.0 |
定年後の仕事、老後の問題 | 21.1 | 22.4 | 19.6 |
昇進、昇給の問題 | 18.9 | 23.2 | 13.7 |
雇用の安定性の問題 | 15.5 | 12.8 | 18.7 |
配置転換の問題 | 8.6 | 8.7 | 8.3 |
事故や災害の経験 | 2.1 | 2.3 | 1.9 |
その他 | 8.2 | 6.0 | 11.0 |
仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの原因
労働者健康状況調査より
男女とも、職場の人間関係、仕事の質、仕事の量の順で高率となっています。
過労問題では残業時間が注目されがちですが、統計では仕事の量よりも人間関係や仕事の質の方が上位になっています。
事業者としては残業時間減少だけでなく、コミュニケーション改善や生産性向上なども、本質的な問題として取り組んでいきたいところです。
男性は「会社の将来性の問題」「昇進、昇給の問題」が高く、逆に女性は低くなっています。
また、女性は「仕事への適性の問題」が高くなっているのも特徴的です。
全体的に男性は長期的な問題に、女性は現実的な問題に原因を置いている傾向がみられます。
事故や災害の経験も2.1%みられます。そもそも事故や災害を経験する人自体が少ないことから、この数値は決して低い数値ではありません。
PTSDが現れていないか注意したいところです。
相談できる相手がいる人は9割
「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレス」の相談相手に関する調査結果です。
相談できる相手がいる
- 全体:90.0%
- 男性:87,2%
- 女性:93.4%
相談相手
- 家族・友人:男性82.8%、女性91.3%
- 上司・同僚:男性74.8%、女性72.0%
実際に相談したことがある
- 全体:73.8%
- 男性:65.8%
- 女性:83.7%
男性より女性の方が相談できる環境も実際に相談する機会も多いことが分かります。
また、若年層ほど誰かに相談する機会が多いというデータもあります。
どのような働き方をしたいのか?
NHK放送文化研究所が5年おきに調査している「日本人の意識」調査結果を見ると、職場や仕事に関する意識が垣間見えます。
2008年の調査結果
理想の職場
- 仲間と楽しく働ける仕事
- 専門知識や特技が生かせる仕事
- 健康を損なう心配のない仕事
理想とする人間関係
- なにかにつけ相談したり、助け合えるようなつきあい(38.9%)→減少傾向
- 仕事に直接関係する範囲のつきあい(24.1%)→増加傾向
この35年で仕事志向の人が減り、仕事と余暇の両立志向の人が増えているとの結果でした。
2013年の調査結果
理想の職場
- 仲間と楽しく働ける仕事
- 失業の心配がない仕事
- 専門知識や特技が生かせる仕事
- 健康を損なう心配のない仕事
理想とする人間関係
- なにかにつけ相談したり、助け合えるようなつきあい(全面的なつきあい)→減少傾向
- 仕事が終わってからも話し合ったり、遊んだりするつきあい(部分的なつきあい)→増加傾向
- 仕事に直接関係する範囲のつきあい(形式的なつきあい)→増加傾向
仕事に余暇に関する考え方は、1970年代から80年代にかけて大きく変化し、「仕事志向」が減る一方で、「仕事と余暇の両立志向」の人が増えているとの結果でした。
心の病で休業・退職した労働者がいる事業所は10%
2013年の「労働安全衛生調査」による、「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した労働者がいる」事業所の結果です。
事業所の規模 | 該当あり(%) |
---|---|
全体 | 10.0 |
1000人以上 | 88.4 |
500~999人 | 81.2 |
300~499人 | 64.6 |
100~299人 | 39.2 |
50~99人 | 15.3 |
30~49人 | 11.3 |
10~29人 | 5.9 |
「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した労働者がいる」
2013年 労働安全衛生調査
当然といえば当然ですが、事業所の規模が大きいほど割合は高くなっていて、500人以上の規模の事業所は8割を超えています。
また、休業・退職した労働者のうち職場復帰した労働者がいる事業所の割合は51.1%であるというデータもあります。
心の病は増加傾向は続いている
職場では心の病の増加傾向が続いています。そのデータを紹介します。
調査年 | 「増加傾向にある」(%) | 「減少傾向にある」(%) |
---|---|---|
2002年 | 48.9 | 3.5 |
2004年 | 58.2 | 1.9 |
2006年 | 61.5 | 1.8 |
2008年 | 56.1 | 4.5 |
2010年 | 44.6 | 6.4 |
2012年 | 37.6 | 7.8 |
2014年 | 29.2 | 9.2 |
「最近3年間で企業内の『心の病』が増加傾向にある」
2014年 公益財団法人日本生産性本部「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果
上記データは全国の企業(対象:全国の上場企業2424社)を対象に労働者の「心の病」が増加傾向にあるか減少傾向にあるかを聞いたものです。
年々、増加傾向にあると回答する割合は少なくなり、減少傾向にあると回答する割合が高くなっています。
ただ、増加傾向と減少傾向が逆転するまでには程遠く、増加傾向は続いていると見て取れます。
また、「心の病」が多い年齢層は30代次いで40代というデータもあります。
心の病が増加する原因
2012年公益財団法人日本生産性本部「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果では、次のような職場では心の病が増加傾向にあるという結果が出ています。
- 職場に人を育てる余裕がない
- 管理職の目が一人ひとりに届きにくい
- 仕事の全体像や意味を考える余裕がない
心の病で一番多いのはうつ病
2006年公益財団法人日本生産性本部「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果では、「心の病で最も多い疾患は?」の問いに、94.0%の企業がうつ病と答えました。(ただし、実際にはうつ病でなかった例も含まれていると考えられます)
これらのデータが示す通り、現在の日本の仕事社会では、誰がうつ病になってもおかしくない状況といえます。
実際、うつ病の有病率(時点有病率)が3~5%ですので、1000人の会社なら30~50人がうつ病でもおかしくないのです。
うつ病は職場に与える影響も大きく、また自殺にも結びつきかねない疾患ですから、特に注意が必要な心の病といえます。
そのため、2011年厚生労働省は、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に、精神疾患を加えた「五大疾病」を打ち出しています。
休職した教職員の原疾患は精神疾患が6割以上
文部科学省の発表によると、2010年度に休職した教職員の原因疾患のうち、62.4%がうつ病などの精神疾患でした。過去10年間で2.2倍に増えているとのことです。
国家公務員がとった長期病欠の原因は、精神疾患が6割以上
平成23年度国家公務員長期病休者実態調査では、1ヶ月以上の長期休職者の原因は、うつ病などの精神疾患が64.6%で1位でした。2位は悪性腫瘍の9.2%でした。
誰にでもうつ病になる可能性がある
うつ病などの心の病は誰にでもなる可能性があります。
身体疾患同様、将来誰がうつ病になるかどうかは、以下の理由により予測が難しいといえます。
- 医学的に予測は困難であること。
- 病前は仕事ができるタイプの人であること。
- 病前はまわりに気配りが出来るタイプの人であること。
これらの理由から、うつ病になると、「まさかあの人が」となりやすいのです。
自殺者数は減少傾向にあるが未だ高水準
警察庁の統計によると、自殺者数は次のように発表されています。
- 1998年に急増
- 2011年に至るまで14年連続で3万人超え
- 2012年は27858人
- 以降は減少傾向
現在は減少傾向にありますが、以前他国と比べると高水準です。
被雇用者・務め人に限ると、2016年は6324人でした。
自殺に対する政府の取り組み
- 2006年:「自殺対策基本法」制定
- 2007年:「自殺総合対策大綱」策定
- 2012年:「自殺総合対策大綱」改正→国や地方自治体が実施する自殺対策への協力、労働者の心の健康の保持増進を事業主に求めた
- 2012年:「自殺総合対策大綱」改正→関係団体との一層の連携、心の健康に関する教育・啓発の推進を事業主に強調
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